投稿作品
橋 福島涼子
もう昼からタブレットしか食べていないので
足取り重く部屋を出る
時に追われることはなくなったから
日が暮れる頃には
おいしいパスタを食べに行こう
駅まで歩いて
駅の反対側には大きな橋がある
橋のふもとから
毎日規則正しくバスが出てゆく
（引き裂かれたのは、記憶ですか？ わたしですか？）
ある朝
橋のふもとのバス停で
15年前のわたしが
静かな雨に打たれていた
出てゆくバスをわざと見送り
排気ガスが束ねた髪を
不用意にまき上げると
彼女は
わたしに向かって歩き出し
すれ違いざま
雨に濡れたわたしの影を踏んだ
（だから、これも現実）
ああ こんなことがあった
と
古い日記を開いても
橋の名前が
みつからない
橋のふもとに歩くわたし
髪を束ねたわたし
バスに乗るわたし
バランスを激しく崩すわたし
何もかも見過ごしていたわたし
（もしもし、こんにちは
（わたしは、わたしを分かりますか
（何それ？
途中でもいい
とりあえず前を向くことから始めなければ
雨上がりの空
新しい日記を探すために
もう一度橋に向かって
歩いてゆく