穢れること。
眠りのうえの陽射しのように
あたたかく
消えるのですね
揺れる葉
水面の
きらきらの処まで行って
笑うのですね
午後の 取引きを終えて
わたしは 今朝に戻る
アイスランドポピイの汚辱
茶色い猫の骨の膨らみ
死んだひとたちが
生きているひとたちの中でだけ
死んでいるのが眩しい
新しい皮膚を持ってあなたに
おはようという
すみれちゃんの
半熟の 茹で卵の黄色
子供達は ちいさな丸いわっかの中から
顔を除かせてそして順番に
いちばん長い滑り台を滑って
じゃぽん
じゃぽん
と清い 湖の底へ
清冽に落ちて行く
きらきらと
あなたは
解放はいつも少し悲しいのだ
と告げた
ママのお弁当を 食べようね
今日の 春色のおかず
森のように緑の愛情が
かつてあったし
今もあるように思える
ゆっくりと
すべてを離す時の
かすかな力が欲しくて
手を放すと
淡いプラスティックのお箸や
大好きなおかずが
少しずつ片方を見放して
掴めない形で
浮いてゆく
声は泡になって
消えるのですね
机の上の溢れた
青いインクを拭いた布の青い滲みが
残酷なほどに
静かで
もう 椅子のように
帰るひとたちを
待つこともない
わたしは黙って
小さな 画面を見つめる度に
眠ってしまう
陽射しの中で
浮いていかないで
湖の縁に沿って歩く
夢を見る
わたしは生まれた
日向の乾いた草の沈黙に
風がまみれる光を
まずはじめに厭った
遠い影に獣の気配がする
少しきつくなった風に
脅えている
穴の中で兄が
父に会いたがって泣いている
ずっと泣いているので
今ではもうその泣き声は
騒音のように
わたしの長い耳から
削除されてしまった
わたしの外側の部分は
そうして騒がしいが
捨てるときにはもう
捨てるという言葉がない
やみくもに
（傷を見せるな 兎たち）
わたしは母に会いたかったが
そのことを言うべき相手がいないので
沈黙している
沈黙するたびに
内側の言葉が白く
降り積もってくる
誰かの答えが聞きたいと思うと
わたしの耳は
また少し伸びる
サバンナには雪がふらないので
わたしの毛色は土色だった
わたしは雪の中で
雪粒を散らして跳ねることを
目を閉じれば雪と見紛うほどに白くなって
色のない 無音の眠りのあることを
思いながら
眩すぎる草むらに
あたたかな土ほこりの上に
まだ出ることができない
あなたは わたしを呼んで
（あなたは 雪の匂ひがする）
わたしの目は紅いのだと
兄が泣きながら教えてくれるその
兄の目は泣きはらしていたが
青い澄んだ瞳だった
お腹が空くと兄は
泣きながら３日かけてやっと
ちいさな鼠をつかまえてきて
いちばん美味しい頬の部分は
いつもわたしにくれる
わたしは夜中に
眠る兄の耳をひっぱって
さみしいよう
と囁く
兄は起き出してきてまた
泣きながら
わたしの土色の毛を
毟りはじめる
穴の真上には無数の星が瞬いていて
わたしは明日も雪が降らないことを
知った
静かな 夜に
野分 紅 profile
今月の作者紹介
TOP PAGE