平田好輝
「出棺」
| なにしろ炎天のなかに |
| 立っていたので |
| 今にもぶっ倒れそうに |
| なっていたのだが |
|
| 待ちに待った出棺のときがきて |
| 人垣のむこうに |
| 遺族が並んだ |
| 「待ってました！」と |
| 掛け声かけたいところだが |
| 黙って喪主の話に |
| 耳傾ける |
|
| −−ジンコウモタカズ |
| ヘモヒラズ−− |
| そんな一生でありましたと |
| 喪主は話をしめくくった |
| 「ブラボー！ |
| 意義なし！」 |
|
| このうえは |
| 一刻も早く |
| 炎天をのがれて |
| 火葬場に行き |
| そこでまた |
| 故人を偲ぶことにしようよ |
| 冷酒を汲みかわしながら |
| 故人のみごとな一生について |
| 語り合うことにしようよ |
「ともだち」
| 二階のぼくの部屋で本を読んでいると |
| きみがやってきた |
| 「遊びましょ」という声は |
| いつもの声だったが |
| 半端な近さで聞こえるので |
| 窓から急いで見てみると |
| きみは馬に乗ってきていたのだった |
| とぼけた奴だよ |
|
| 町の中を |
| 馬に乗ってきたというのだ |
| 立派な馬だった |
| 知らないおじさんに借りてきた |
| というのだから |
| きみは本当に |
| とぼけた奴だよ |
|
| 「遊びましょ」と |
| 笑顔を見せながら きみは言った |
| 「でもね |
| 知らないおじさんにお尻を押し上げてもらったのだから |
| 自分では降りられないんだよ」 |
| きみはちょっと困った顔で言った |
| 自分で「遊びましょ」と言っておきながら |
| 馬が歩き出すと掌をひらひら振って |
| すぐに行ってしまった |
|
| きみはよく |
| ぼくを笑わせてくれたが |
| 馬に乗って現れたことも |
| 傑作だったよ |
|
| 十一歳ぐらいだったかな |
| それからどうしたのだったか |
| ぼくの家も引っ越したし |
| きみの家も引っ越したのだが |
| それぐらいのことで |
| なぜそれっきりになってしまったのか |
| あとでもきみのことを |
| ときどき考えたのだが |
| 二度と会えなかったね |
詩集「海は 遠いものに」(エイト社)より
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