| ２４６へ向かう住宅街の用水路沿いを帰りながら |
| いもうとの手をとった |
| 僅かな驚きが一瞬のこわばりとなって伝わってきたが |
| いもうとはとられるままにしていた |
| ぎこちなさを振り切るように私は軽く手を振って |
| 歩いた |
| 黙っていた |
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| おんなのひとの体に触れるのが私は苦手だ |
| 胸にかかえられた記憶がない |
| それはいもうとも同じ |
| いつも私のあとをついてきてからだが弱くて |
| ジュースを飲ませればもどしてしまうし |
| 湿った掌に握った硬貨はすぐに落としてしまうので |
| しかられるのはいつも私だ |
| 私は早くにいもうとの手を放した |
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| えみちゃんはわたしが肺炎になっても友達と遊んでいた |
| えみちゃんはいつもわたしの始めることに文句をつける |
| えみちゃんはわたしのつらさをわかってくれなかった |
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| いもうとも私の手を放して遠くへいってしまった |
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| だんだん暮れてくる |
| あの日、鍵のかかった病院の窓からいつまでも |
| 手を振っていた姿を忘れることはない |
| ぼんやりと無表情になったその人なのに |
| 機械のように右手がいつまでもいつまでも動いて |
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| きょうの日が来るとは思わなかった |
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| いっしょに電車に乗って |
| 二子玉川の高島屋で買い物をした |
| 家族、のために |
| いもうとをくるしめる家族はけれどいもうとの |
| 寝台であり |
| それは私も同じ |
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| 高島屋の屋上でジュースを飲んだ |
| ペットコーナーから出てこないいもうとを迎えにいくと |
| 一番奥の暗がりのインコのケージの前に立っていた |
| 目を伏せるだいだい色の鳥の背に |
| しっくりと深い緑の鳥が嘴を小刻みに入れ |
| それらは飽きることなく羽繕いをしていた |
| いもうとは見入られたように動かなかった |
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| ジュース、飲もうよ |
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| 口から出る言葉とわき出る感情のあいだには大きな |
| 隔たりがある |
| 一生のあいだに言葉に変換されないで終わる感情の |
| 海のような果てしなさ |
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| 手をつないで |
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| あなたを苛んだ |
| 優等生のえみちゃんはここにいないよ |
| 体も魂も売ってしまえる |
| 私の手のなかにある |
| やわらかい手のぬくみ |
| そのたよりない |
| 確かさに |
| ささえられているのは私だ |
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| ごはん |
| つくって食べさせて |
| と、 |
| いもうとがくちをひらく |