| 引出しの中に 鬼がたんと詰まっていて |
| 着物の襟元からぬっとしのびこんでしまうらしい。 |
| ぷつんと切れた |
| 記憶系統の糸 其れは |
| からまりあった色々なコードのように あなたを罠に嵌め込む。 |
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| 弾かれたゴムのように |
| 弛緩したことばが |
| 電話線を 宙返りしながら とどくころ |
| もうあなたは 次の言葉のゆくえを |
| 暮らしたことの無い世界のむこう側からさがしだそうとしている。 |
| 死にかけた蚊に やむをえずとどめをさすように |
| 泡のように増殖する言葉を 私は切る。 |
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| 左足のサンダルに最後の指を押し込もうとすると |
| 赤ん坊のなきごえのように |
| あなたの音が 私をひきとめる。 |
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| 遺影を ひっくりかえしながら |
| もうだれも来ないんだよ |
| 豪華だった洋ナシや 南国の果物の詰め合わせも |
| たべてないんだよ と 鸚鵡のようにじぶんの言った言葉を |
| 自分が 復唱している |
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| ・・ところであなたはどなたですか・・？ |
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| わたしはそのたびに 猫のようなこどもや |
| 渋茶のようなずっしりした声 |
| やすりのように寒気を催させる声 |
| を出す。 |
| ＜なつかしい配役をリストアップしておく＞ |
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| あてのないところへ投げられるボールのような |
| 存在するようで しないような |
| 記憶の つなぎ眼を投げる言葉。 |
| あなたは |
| 凄くふかいふかい |
| 雲がひんやりと恐ろしい辺りの高度で |
| いま投げた言葉の在りかを |
| 地面に叩き落す。 |
| ＜それはもう まっさかさまに ＞ |
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| にじり寄るあなたの 脱獄を試みる囚人 |
| のような 言葉 |
| は |
| 泡のように |
| 増殖してゆく。 |
| 或いは |
| 誰も知らない真夏の木陰 |
| の石を引っ剥がした |
| とき びっしりと敷き詰められた美しく |
| 悲しいコケのような |
| 生きてきた言葉 |
| 腐乱しきってしまえない |
| 名残惜しい言葉 |
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| ＜あたしを知っておくれ |
| いつ |
| 何処で |
| 何時何分何秒に |
| あたしがなにをしたのか |
| あたしに |
| ヒントを 砂糖の粒ほどの |
| 蚤の大きさほどの |
| ヒントを ＞ |
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| わたしは ダンボのように開ききった耳 |
| をすぼめたり 掻いたりしながら |
| ＜また 一台のバスが家の前を通り過ぎていった。 ＞ |
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| そうね |
| そうです |
| そうだね |
| そうなの |
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| じくじくと時間が |
| 細い漏斗の中から |
| どろ水のような匂いを放ちながら 午後をながれてゆく。 |