マドベで 樋口えみこ
だいどころの曇り硝子ごしに ゆれる折鶴蘭のシルエット 葉脈を透かして 西陽がゆれる
風には音がないのに
ちかくの精密工場の裏から かたく伸びた草の鳴る音が届いてくる
どこかでちいさな女の子の 湿った声がはじけて ゆれる
私もちいさな子どもだったころ 教室の机に肘をついて 耳を両手でおおい やわらかくまじりあうざわめきをきいていた 仲のいい子の声も気になる男の子の声も よく知らない子たちのお喋りも 集まってただの音になる
葉音の陰で雀がピチュチュ と言う 水をためた容器がおいてあるからだ
目に見えるように音がうごいて 去っていきまた 戻ってきて 髪にふれる まだあかるい陽にちからをえて でんわを かけた
雨だと言う、
このまずしいだいどころにこもる光の気配が あなたのところまでは届かないんだな いつかは けれども届くことも いつかは けれども こうして すこしずつ ちからをえて いつかは・・・・・ 届かないのかもしれない ありきたりな話をして けれどもやがては 私も あなたも ただの音に、