penteka !
被爆
野分 紅
生きているひとの
軟らかく閉じた
触糸に触れたい
焼けて爛れてしまった
日本語に触れたい
(こんにちは B-2
わたしのこどもたち
ことばをおぼえたね
まだことばをおぼえていないね
こんにちは は
であったときの あいさつ
まだ あかるいうちに
いう ことば)
その窓のない部屋では
生きているものは
わたしたちだけだった
昼間のあなたの目に映った欅の花を
蛍光灯の下で摘みとったり
見えない無数の孔から自然発生する水を
飲んだりする
虫でもいれば
その閉じた触糸が
揺らぐかもしれなかったけれど
もう無音のままに
探知されてしまった
密室のふたりの
小さなお話に反応した、グラマンB-2
(まだなんにもしらない
わたしがする
おはなしを
たのしみにしていた
きもちいいことを
あなたたちがいつも
ほしがるから
せかいはまるい
おはなしが
とぎれないように
あなたたちのためにせかいは
おそらくまるい
いつまでも)
日本語をもう
覚えていない
生きているひとの
唇は
焼けて爛れたまま
ほとんどもう呻きに近い
最後の嘆きを発しながら
微笑んでいる
自然発生した虫が這って
垂直に、言葉が刻み込まれた後の
十字の傷の
触糸も もう
乾いて
覚えていない
(であってしまったときにおとずれた
おわりを どうか
なげくことのないように
せかいはおそらくまるい
いつまでも、 B-2
とんでいけ
さがせ
ばくだんを、
おとせ
こわしてしまえ
そしてまた)
眩しくて
涙をながさずに泣いた
弱い叫びが満ちたその時に
わたしたちの目が初めて
まっさらに開いた
欲しいものの何もない
永遠に閉じることのない
別々の瞳だった
(こんにちは Bー２
わたしのこどもたち
こんにちは は
まだあかるいうちにいう
ことば)
こんにちは
まだ明るいうちに
出会ってしまった終わりに
焼けて爛れた丸い虫がまた
いつまでも丸い世界に触れる
生きているわたしたちは
手を繋いで
被爆者として
太陽を浴びている
わたしの目にも
欅の花が映っている
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