投稿作品
飛ぶカズコ
T.T
なにも買ってやらないのに
なにも言わないカズコに
やっと靴を買った
踵の低い 布でできた 黄色い奴だ
安くてかわいらしかったから
なにも飾りがついていなかったから
いい と思った
素足で履いてくれればな と思った
足首とふくらはぎの区別がつきにくい
あの足には 少しつらいかな と思った
その無名の黄色い奴は
大袈裟な箱にそっとしまわれ
リボンまで つけられてしまった
まるで贈り物のようだった
なにも買ってやらないのに
なにも言わないカズコは 目をみはって飛びついた
前髪が一本 その勢いでおでこに垂れた
鼻を膨らませて「なに？」と言った
なんと答えていいのかわからず
とっさに叱った
「なに？とはなんだ！
リボンは 解かれるためにあるのだ！」
内心少し照れていた
バレバレだったと思う
バレバレだったのに
さらにいばって睨みをきかした
じっと見上げられるのはかなり辛い
その目は獲物を狙う豹のようであり
こっちはシマ馬にでもなった気がして・・・
実際リボンは 解かれるためにあり
緑色のそのリボンは
なにも買ってやらないのに
なにも言わないカズコの
細くもなく太くもない指に
いともたやすく解かれた
おでこの一本がゆれている
もう一本垂れてきそうでイライラする
「なんだろう？」「なんでもない！」
「ドキドキする」「ドキドキなどしない！」
「でも どうしたの？」「どうもしないよ！」
そんな欠伸ものの会話のなかから
黄色い靴が いかにも安物らしく
白いパリパリした紙のなかから
登場したわけだ
「あっ！靴」「見ればわかるだろう！」
こいつはバカだと思った
「黄色い！」
本当にバカだと思った
「かわいい！」
少し助かったと思った
「ありがとう！」
そう言う言葉はだいの苦手だ
助けてくれ と思った
そう言う言葉が嫌だからこそ
いつもなにも買ってやらないのだ！
それは少し都合がよすぎるか？
案の定また一本おでこに垂れた
「はいていい？」
「靴ははかれるためにあるのだ！」
よかった そう思った
ピッタリだ そうも思った
似合っている とも思った
ただやっぱり 足首とふくらはぎの区別は
いぜんつきにくかった
「にあう？」「どうかな」
「にあう？」「そうだな」
「にあう？」「しつこい！」
そんな嘔吐ものの会話のなかから
カズコは一瞬飛び跳ねた
「飛べ！そうだ その靴で飛んでみろ！」
嬉しそうに飛び跳ねるカズコ
カズコは高々と跳び
天井につきそうなくらいに飛んだ
目の前で一瞬 カズコが静止したように感じた
まるで黄色い足を持つ鳥が
目の前に羽ばたき降りてきたのかと思った
その見下ろす目は
獲物を狙う鷹のようであり
こっちはウサギにでもなった気がして
何処かに逃げ込みたい気分になった