penteka guest
謎笑の仮面
-メキシコ人であるきみたちへ-細野 豊
探しに行くところにはいつだって きみたちはいたためしがない 太陽のピラミッドの日陰にも そこから月のピラミッドへとつづく 死者の道の乾ききった日向にも きみたちは謎めいた微笑の気配だけを留めて 決して姿を現わさない ひきつった忍び笑いが聞えてくるとおぼしき あたりを掘り起こしてみても 出てくるのは 空洞の目をした生真面目な仮面だけで 交感は不可能だ 白い刺がびっしりついたノパール*の 増殖する不安を定着させるために 高地平原にまばらに立っている 灌木の中の一本のように俺は自立したい きみたちが 母なるマリンチェ**を許さないように 俺もおふくろを批判しつづけているので 内部の崩壊はとめどがない それをかろうじて包みこみ きみたちを探しまわる 昔シベリアの原野を 東へ向って共に駆けた記憶が埋もれている 干上がった川底を徘徊しつつ ただ一度だけでもきみたちの素顔を見たいと 思いはじめたのはいつだったか あれから永い時間が過ぎたのに いまだに謎めいた微笑の仮面にさえ 出会うことができない
*ノパール：サボテンの一種。食用に栽培もされる。草履のような形の茎が次々に増殖する
**マリンチェ：メキシコを征服したスペイン人、エルナン・コルテスの情婦となって仕えたインディオの女性
詩誌「日本未来派」199号発表作品