penteka！
黒い花
野分紅
チューリップのリップスティック みたいな男向けの体をもった 昼間の母。 フランネルみたいな触感で 抱きかかえて わたしを蔵に閉じ込める 悲しく開き気味、朽ちてゆくの 諦めきれなかったよ
前日、二人で畑の隅に あたたかな球根を植えた ゆがいて食べたい 閉じ込めた、臓。 きっとゆりねの味 隠しても隠しても 出てくるのだから いっそのこと潰してしまえばよかったのに フランネルみたいな触感で わたしを打って 土に埋める やがて チューリップのリップスティック みたいな昼間の母 が 開花宣言する お前は、４月の黒い花だと わたしは紅い口紅を塗った ピアノの上のフランス人形みたい お前は、 ４月の黒い花 だ
モスバーガーで男と落ち合い トマトの汁をこぼしながらバーガー食べて 今夜もたぶん求められます みみずのように潜り込む彼 南港の暗い埠頭 運転席から揺れる灯台を見た おじさんが覗き込みながらすぎてゆく まっすぐな眼差しだ、絶望的に。 ばいばい、 おじさんとわたしはその時間通じ合う 男は何も出ぬ乳を吸う 何も出ぬ乳を 吸う
チューリップのリップスティック みたいな希望の子 剥がれ落ちた唇を付け直す 希望は球根のような幸福のような形に見えた ゆがいて食べてしまいたい 昼間の母を。 あの頃、 まだ目の見えなかったあの頃、 わたしは確かにその乳首を探り当て 懸命に 吸引していた ゆりねの味の ４月の 黒い 花。
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