投稿作品★     
  
水銀みたいな
by 田辺 弓





たぶんそんなふうにして
わたしたちの最後の年は終わったのだ
雨上がりの冬の夜空は
ふしぎなほどたっぷりと露をふくんで
香ばしく沈んでいる
いつもの駐車場は
オレンジの外灯にぼんやり浮かんで
つめたく
やわらかく
夢のなかの
苦しみのようなあの場所によくにてる
            
銀色のおもさが
胸の高さまでわたしたちを包んでいる
じんわりとまとわりつきながら
わたしたちは溺れていくの
夜の境目に閉ざされたまま
乾くことなく
    
ここはさみしい地上の果てで
ふたりはいつか保健室で
パシャリと音立てて割れた体温計から
こぼれだした水銀みたいに
     
不自然に散らばったままで
いつもの駐車場
オレンジの外灯
雨上がりの夜の空
つめたく
やわらかく
裂かれていく
形も重さもわからない水銀みたいなわたしたち
     
霧のなかを歩くのはとてもむずかしいね
笑いながらその軽やかな足首だけで
あなたを
探しだせたこともあったのに
      
もういいよ、
あなたが囁くと
わたしの耳はもう折れている
まあだだよ、
わたしが答えると
あなたの喉はもう塞がれている
     
そんなふうにして
わたしたちの最後の年は終わったのだ
耐えきれずにぷつりと途切れ
ゆるやかに
あとはとめどなく流れていく
わたしたちの










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