penteka!
ある種の旅の結末 Ｔ.Ｍ（宮田 直）
1.はじめての場所
「正直言いますが
この場所は私にとってはじめての場所です」
私は男に言った
「記憶をさぐっても
この場所のことはおぼえていません
つまりこの場所は
私には関係のないところなのでしょうか」
続けて私は男に言った
男は静かに口を開いた
「確かにこの場所にある喫茶店では
ウエイターがすべらせて皿を割る
そして窓際の席では老婆三人が
何も入っていない皿を前にして物語を順番に語る
だが基本的なことは何も変わらない」
そして男と私は横断歩道を渡った
だが二人とも走ってきた車に
はねとばされた
2.おもちゃの兵隊
棚の上には
おもちゃの兵隊が並んでいる
私が幼かった頃
自分がそれでどうやって遊んだのか
記憶がよみがえってこない
ある記憶といえば
どこまでも続く畑のうねや
下水溝に落ちることなく道を歩き続ける
芋虫の記憶だった
私は毎朝起きると
ヒゲをそってヘルメットをかぶる
そして戸棚からライフルを取り出し
空高くに位置する青白い月に向かって引き金を引く
おもちゃの兵隊もまた
空に浮かび続ける月を見上げている
彼らが持つ銃も空砲なのだろうか
3.カメとの対話
「最早疑問はなくなりました」
私はカメにそう言った
カメは海にぷかぷか浮かびながらこう言った
「めでたいことです
問うべきことが何一つないというのは
もう私は砂浜で
好奇心旺盛な子供達にひっくり返されたり
甲羅を脱がされたりすることもなく
静かに卵を生むことが出来るのですね」
「ええ、ようやくです
ようやくあなたは静かに卵を生むことができるのです」
私はカメにそう言った
「めでたいことです
それではこれから一緒に砂浜へ行き
私が生んだ卵を見ながら問いをもう一度発しましょう」
カメはぷかぷか浮かびながらそう言った