★penteka no mori　　　　　　　

雨 の 夜 に

村上悦代

気がつくと雨の中を歩いていたよ

あのひとの息や言葉が　小雨になって　降りかかってくるよ

溶けていくよ　ドレスやマニキュアが

赤い染料となって　したたり落ちるよ

髪もぬけるよ　腐敗を司る使者だよ

皮膚も擦るとはがれていくよ　日焼けの跡よりも汚いよ

あのひとの　思いどおりに私の手も足も　雨風に負ける枝でしかない

硫黄くさい雨だよ

道に皮を剥がれた鶏の私がいるよ　頭なんかどこに転がっているのか

まだ残っている産毛を　あのひとは優しく抜くよ

抜かれた跡に血が涙のように滲むと　優しくキスしながら唾液を流しこむよ

硫黄質の唾だから　おこりがはしるよ

怖くて　だるくて　なにもしたくなくなった私が　今ここにいるよ

僕は言葉を持てない人間だけれど　これは愛なんだと囁きかける

あのひとの目に吸い込まれる私は　ただ　怯えながら

文化性を持てない陰獣そのものの　曖昧さで

雨の降らない地方へと　流れていくよ

数えきれないほどのローソクが立ち並ぶ　墓石群ににた街の明りに　舌を出しながら

涙さえも　束の間　私の飢えを潤すことに驚きながら

気がつくと　雨の中を歩いているよ　硫黄くさい　雨だよ

詩集『けいようのもり』に収録

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